平成29年度修了証書・卒業証書授与式告辞

 梅や早咲きの桜の向こうに富士山が薄い春霞で少し遠く見える季節となりました。本日、ここに、専攻科修了生32名に修了証書を、準学士課程卒業生209名に卒業証書を授与いたしました。卒業生の中にはマレーシアより4名、インドネシアより1名、計5名の外国人留学生も含まれています。また、専攻科修了生には学位授与機構より特例適用認定専攻科として学士(工学)の学位も授与されました。修了生並びに卒業生の皆さん、誠におめでとうございます。本校の教職員一同、心からお祝い申し上げます。ご列席のご家族や関係の方々にも心からお慶び申し上げます。さらに、ご多忙の中ご臨席を賜りましたご来賓の工藤前校長、名誉教授、同窓会、後援会の役員各位にも、これまでのご指導、ご支援を深く感謝申し上げます。

 学生諸君、5年間あるいは7年間にわたる厳しい勉学や研究によく耐えてくれました。木更津高専の創設以来これまでの卒業生は7千名を超え、また専攻科修了生は490名余りになり、国内外の様々な領域で幅広く活躍しておりますが、諸君はこれに続くことになります。

 本日の式典を終えて、諸君の半数は直ちに実社会に門出します。また残りの半数は本校専攻科や大学編入などの進学、大学院入学などでさらに勉学と研究を続け、その後、実社会に出ることになります。いずれの場合においても、これから諸君には様々な人生が待ち受けています。

 近年の我が国の大学など高等教育体系においては、いわゆる「高学歴」人材の「低学力化」の問題、つまり学生の基礎学力の低下が深刻な問題となってきています。本校の卒業生ならば多くの人がクリアしてきた「微分方程式」や「ラプラス変換」などはおろか、少し複雑な代数演算さえできない工学系大学の卒業生の存在などは、この一例であります。この嘆かわしい状況に対し、当然修めるべき教養や理工学の基礎知識・能力に加えて、産業界や政府からも、日本の若者が高等教育において身につけてほしい「社会人基礎力」が提言されています。そのなかで主体性、問題発見力などいくつかの能力要素とともに挙げられた重要な「三つの能力」に「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」があります。これらは典型的に国際社会の中で日本の若い学生諸君に不足している力と言えましょう。特に「前に踏み出す力」を駆動する大きな要素は、力強い手足、つまり「理工学的筋力」であり、その筋力が、不可能と思われるものも可能とする一歩を生み出します。
 いま、本校の教育課程を卒業・修了した諸君は、数学や物理・化学や専門分野の基礎知識や、語学等を含む教養力とあわせて、本校の各学科や専攻の厳しい演習・実習などを行い、多くのレポートを提出し、一般特別研究、卒業研究、専攻科特別研究などをクリアし、「前に踏み出す力」を身につけ、さらにロボコン、プロコン、サイエンス・インカレ、情報危機管理コンテストなど様々なコンテストや国内外の学会・講演会などに参加して、「考え抜く力」と「チームで働く力」を蓄えて、一般の大学など高等教育機関の卒業生に比較してはるかに力強い手足、すなわち実践的な「理工学的筋力」を鍛えてきました。これから皆さんが、不十分でも構わずに英語などで外国の人々とコミュニケーションをとるちょっとした勇気を持てば、理工学的筋力である数式、化学式、設計図面や製作法、実際の製作物、プログラムや電子回路・設計書などの国際共通性と併せて、多様な国々の人と連携・共同して、仕事を進めることが可能となります。特に、英語については、完璧な文法に心を砕くよりも、多く聞き、多く会話し、多く読み、多く書くことが一番重要です。何よりも外国の友人を多く作ること、いろいろな話を聞いて、話して、間違ったら直してもらい、読んで調べて自分の身につけてゆけば、実力は後からついてきます。

 皆さんの未来に関して、最近のITや人工知能・機械学習などの急速な進展に呼応した形で、英国オックスフォードのオズボーン教授の論文や政府統計などにより10年20年後に無くなる職業が随分議論されております。過去にはワープロの普及により日本語に関する和文タイピストの職が急速に失われたことなどが代表ですが、一方で、同時に新たな職業の展開や求人が膨らんだことも事実で、先ほど申し上げた三つの力を十分に身につけた皆さんならば、未来の様々な変化に十分対応して行けると私は確信しております。
 それに対し、現在私が危惧し、卒業する皆さんに心に留めてほしいと考えていることは、次のような点です。イギリスでの十八世紀半ばからの産業革命以降、労働の付加価値や、富や資産の配分に関しては様々な議論や政治を含めた形の経済体制が構築されており、それは今も各国で続いています。しかし、私たちはスマホを含めた情報技術、AIやITの急速な進展の真っ只中におり、未来の姿を想像することは困難であります。この第4次・あるいは第5次産業革命とも言える変革は、ダボス会議でのある首脳の言葉のように、同時に民主主義と言われる社会システムにも新しい局面を開く可能性があると言えましょう。それは私の造語ですが、おそらくデジタルデモクラシー社会と考えても差し支えありません。過去の労働や資本、富や付加価値の配分と同じように、今、デジタルデータキャピタリズム、データ覇権主義、囲い込み、過度な集中などの諸現象が起こりつつあり、かつ私たちは、あまり気がついていない点が心配です。過去の経済体制等の議論と異なり、デジタルデータは価値が薄く膨大で、いわば山中や路傍の石と同様、一見、何の価値もない様に見えます。私達が毎日使用しているスマホなどの作業や使用傾向などはただそれだけです。しかしビッグデータとして、それら膨大なデータを採掘し精錬したり研磨する工程を経ると、それらは一変し、貴金属や翡翠など宝として大きな価値を持つものになります。この富と価値の創造を誰が行い、一般の私たちがその成果をどの様に分配できるのか、デジタルデモクラシーの体制を十分に考えてゆく必要があると思います。また同時に「全てのデータ情報にはバックドアの可能性がある」とも言われますので、皆さんは、今後、十分にこれらのことを考えながら、社会での生活に取り組んで欲しいと思います。

 諸君の晴れの門出を心から祝福すると共に、元気にたくましくそれぞれの人生を切り開き、家族や友人や仲間を大切にし、その結果が日本や世界の明るい未来に繋がることを祈念して、贈る言葉といたします。卒業・修了される皆さん誠におめでとうございます。

2018年(平成30年)3月16日
木更津工業高等専門学校 校長
前野 一夫

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